小沼愛子
前回「アメリカではオンラインでの音楽レッスンが急速に当たり前に行われるようになった」ということを紹介しました。
医療、教育、その他多くの分野でオンライン化が進んでいるのは日本でも見られる現象であると思います。
この現状を踏まえ、今回から「オンライン音楽療法」「遠隔音楽療法」という形態の音楽療法の臨床実践についてお話ししていきます。
外出規制下で集団セッションすべてがキャンセルとなった中、私はシニアの歌唱グループを”オンライン上で” 再開するべく準備中、数日前にはデモセッションを行い、最終調整しています。
まずは行うための心構えから。
「普段の対面式セッションでやっていることで出来ない事はある。それを容認した上で出来る範囲でベストのことをする。クライアントさんに意味のある経験を提供することを一番に考え、自分側のやりづらさはある程度受け入れる」と考えながらプランを立てています。
対面式とは異なる介入方向になるのは当たり前、実現できる範囲を見極める。そして、不安に思う関係者に明確にセッションプランを提示することが大前提。この仕事における、柔軟性、創造性、コミュニケーション力の重要性を痛感するばかりです。
今回このブログを書くにあたり、英語で「遠隔音楽療法」をキーワードにインターネット検索してみたところ、ある程度の情報が見つかりました。その多くはごく最近アップされたもので、新コロナウイルス感染拡大においてアメリカの音楽療法士達が「できること」「やるべきこと」に焦点を置いて、未完成ながらも倫理を守りながら出来る限りの情報をシェアをしている状況がよく分かります。
AMTA(アメリカ音楽療法学会)も「新型コロナウイルス感染拡大対策」という大きなセクションをウェブサイト内に作成していて、その中で遠隔音楽療法についても沢山情報提供しています。これについてはまた次回以降詳細を書きたいと思っています。
私自身はこれまでに遠隔音楽療法の実践をしてきたわけではないのですが、昨年9月には日本音楽療法学会学術大会にて、シンポジウム「日本全国に音楽療法を届けるための『遠隔音楽療法』の現状と可能性を議論する」で、シンポジストの一人として参加しました。
このシンポジウムに参加したのにはそれなりの経緯があります。今回詳細は省きますが、まずは「日本における遠隔音楽療法の研究は過去10年に渡り進められ、臨床実践重ねて形になったものがすでに存在している」という事実をお伝えしたいと思います。
私が遠隔音楽療法研究に関わることについて前向きな意見をいただいてきた一方、「遠隔とか絶対無理」「オンラインはあり得ない」など、否定的な声を沢山聞いてきたのも事実です。「遠隔音楽療法実践が普及するようなことになれば、自分の地元の仕事を奪われると危機感を抱く」という声も複数届いています。
色々な意見があるのはもっともだと理解する一方、新しいこと、知らないことであるがゆえの誤解やバイアスが多くあるようにも感じてきました。
例えば、これは仕事の奪い合いではなく「より広く音楽療法実践を届けることのできる方法である」こと、「各事情で対面式音楽療法セッションが受けられない方々のためにできる音楽療法士としてベストの選択の一つでである」こと、そしてこの危機状況においては、「大切なクライアントさん、自分自身や家族を含めた関わるすべての人々を感染リスクにさらす危険性から守ること」に直結していると考えています。
出来ないことを嘆くより出来ることに焦点をあてて前に進むのが音楽療法士の特質であると思いますし、クライアントさんや生徒さんの見本となるべく安全第一かつオープンマインドで挑んでいくのが健康的で建設的に思えます。
さて、次回からはオンライン上の音楽療法セッションについて、より具体的な情報を紹介していきます。