高齢者への音楽療法&音楽プログラムを再考 その4:サインを受け取る力

細江弥生

 

このシリーズでは、「高齢者への音楽療法=懐かしい曲を使う」というスタイルだけではないこと、実際の方法などをご紹介していますが、決して「画期的な新しいプログラムが大事だ」と主張しているわけではない事を再度お伝えしたいと思います。

 

高齢者への音楽療法&音楽プログラムを再考その2小沼が述べているように、「他の人のやらないことをやろうとする」ということでなく、「個々のクライアントのニーズに合わせて音楽やアプローチを選ぶ・作り上げる」事が重要であり、そういった姿勢が自然と新たなアイデアやプログラムに繋がっていくことを理解していただけたらと思います。

 

さて、今回は私細江が認知症高齢者の方々との臨床を通して学んだ事を振り返ってみたいと思います。

 

認知症の方との音楽療法では「対象者が懐かしいと感じる曲を使用する」ことが定番となっていますが、私はあるケースで、「懐かしい曲ではなく、新しい曲、さらには自ら作る曲が良いのではないだろうか?」と感じる認知症の患者さんに出会いました。

 

「認知症になると新しい事が覚えにくい」というのは確かにありますが、だからと言って「何も覚えられない」わけではありません。まだ軽度の方や、認知症のタイプによっても「新しい事が覚えられる」、さらには「新しい事が良い事」となる対象者の方もいます。

 

ここで重要となるのは、できるだけ「成功体験」となる様に慎重にアプローチ方法を選び、丁寧に進めていく事だと思います。また「新しい事を覚える」事がその人にとってなぜ良い事なのか、目的無しに無理に導入することはお勧めできません。

 

ここで紹介するケースでは、

 

「懐かしい曲を歌っているうちにいつも想いが表出される」

「その想いには重要なメッセージ性がある」

「普段は言葉で伝えられないけど、伝えたい人達が本人さんにいる」

「言語で伝える事は、その方の現在の機能では難しい」

 

といった過程から、「ソングライティング*」を選択する、という流れになりました。

 

そこで完成した曲は、その方にとっては「新しい歌」でしたが、4曲程覚えて歌うことができるまでになり、人前で披露する事も出来ました。もちろん認知症の進行具合もあるとは思うのですが、認知症の方でも「ただ懐かしい曲を歌い、想いを表出する」で留まるだけではなく「それをまとめ、新しい事を習い、発信する」事もできる、を教えていただけた経験でした。

 

常々思うのですが、色々なアプローチや方法にとらわれているのは案外セラピストの自分で、新鮮な風を吹き入れてくださるのはいつもクライエントさんや患者さんだったりします。改めて「彼らが私達セラピストに発信してくれているものを受け取る力」の重要性を考えさせられます。

 

 

*ソングライティングは患者さんやクライエントの状況によっては注意して使用しなければいけないアプローチです。十分に訓練を受けた上もしくはスーパービジョンを受けながら行なってください。

 

 

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