小沼愛子
このところのトラウマケア関連の調べ事の最中、今回のタイトルにある「マストラウマ(Mass Trauma)」という言葉について、あることに気がつきました。これは地球上のどこでも起こりうる現象ですが、日本語ではほとんど紹介されていないようです。
「トラウマ」(Trauma)」という言葉は、すでに日本語として浸透しているので、何を指しているのかピンとくる方が大半かと思います。
日本語でトラウマというと「心的外傷」を指すのが一般的ですが、英語では心理学的な単語としてだけではなく、医学的に身体外傷を表す言葉としても使用されています。
「マストラウマ」という言葉の中の「トラウマ」は、日本語で考えられている心的外傷、すなわち心理学的な側面が強いのですが、身体的外傷を分けずに考えているような記述も見られるので、この辺りはあまり強く言い切れません。
では、トラウマの前に付いている「マス」は何を指しているのでしょうか。
これは、「マスコミ」「マスゲーム」などに使われているのと同様、「集団」「大量」「大人数」などの意味になります。(ちなみに、この2つの言葉は和製英語ですが、「マストラウマ」は英語でもこのまま Mass Trauma です。)
マストラウマは、大規模な自然災害や人災(紛争、戦争、大量虐殺や迫害なども含む)によって、大人数が受けるトラウマを意味します。
世界中でマストラウマが起こるような出来事が増え続けることを受け、関連のリサーチや文献が急速に増えている印象があります。数はまだまだ少ないものの、音楽療法界でも少しずつ事例や対策を紹介する文献が出ています。(現時点で、3冊の関連英語書籍といくつかの論文が私に手元にあります。)
前回ブログで紹介した「サイコロジカル・ファースト・エイド」は危機における心理的応急処置ということでまとめられていますが、最近のマストラウマに関する文献を読むと、同様の観点から書かれているものが多いことに気がつきます。
「マストラウマとは何か」を研究するというよりも、「マストラウマへの対策」という視点を持って執筆されているものが多い印象です。その視点やアプローチにはいくつか違ったものが見られますが、被災や被害を受けた方々を研究材料のように扱うのではなく、対策を考える方向で文献がまとめられていることは個人的には共感できる点で安堵すらします。こういった文献は日本語でももっと紹介されてしかるべきとも感じます。
自然災害も人災も紛争も起きないことを祈るばかりですが、私たちが願うようにいかないのが現実です。非日常的かつ耳障りの良くない感じのある言葉かもしれませんが、音楽療法士も知っておくべきでは、と思い紹介させていただきました。
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