小沼愛子
ボストンはまたしても寒波に襲われ、非常に寒い一週間でした。
今月はすでに自己経験最低気温となった摂氏ー20度を体験していたため、ここ数日はー10数度くらいで何となくホッとしているところもありますが、なぜ寒がりの自分がいまだにここに住んでいるのか?と、不思議になる時があります。
こんなに寒くても、今年もメアリーさんのピアノレッスンが始まりました。今週が今年2度目のレッスンとなるはずでした。
ところが、先週末にメアリーさんから、「ちょっと話したい事があるの。今日の午後はずっと家に居るから、電話もらえるかしら?」という、何だか気になるメッセージが・・・
これは何かあったに違いない・・・
留守電に残されたメアリーさんの声や口調は普段とおりだったものの、不安がよぎります。ドキドキしながら電話をかけると、あっさり留守電につながりました。午後は居るって言っていたのに・・・と余計に心配がつのります。
数時間後、メアリーさんから折り返しのお電話が。
「ごめんなさいね、留守にしていて」
「いえいえ。メアリーさん、お元気ですか?」
「私は元気よ」
メアリーさんのお声はいつも通りです。
「どうなさったのですか?」
「娘が手術を受けてその後調子が良くないの。自宅療養中だから、家の中が落ち着かなくて」
「お嬢さんの手術は上手くいったのですか?お辛いことでしょう」
「ええ、手術は成功。今は可哀想な状態だけれど、大丈夫になるわよ」
さすがはナース。落ち着いたものです。
「それは何よりです。早く痛みが無くなって気分が良くなられますように」
「ありがとう。実はね、それだけじゃなくて。」
と、変わらず落ち着いた調子で話続けるメアリーさん。
「義理の姉が亡くなったの。これから何日かはお通夜やお葬式でバタバタするし、病人が家にいるし、来週のレッスンはお休みにしたいのだけれど。Is it OK with you?」
”Is it OK with you??” 訊かれたことを頭の中で繰り返し、この話を聞いて「not OK」と言う人がいるわけがない・・と心の中でつぶやきます。
「お悔やみ申し上げます。レッスンのことはもちろん大丈夫です。大変な状況でとてもお忙しいことでしょう。ご無理なさらないで下さい。」
「ありがとう。キャンセルして申し訳ないわ。その後のスケジュールは今まで通りでいいかしら?」
「いえ。メアリーさんやご家族のご事情が落ち着いてからお電話いただいて、それからまたスケジュールしましょう。ご負担にならないように」
「大丈夫だと思うわ。そうなると、次は2月の第一週目、ということになるかしら。あなたの方はそれでいい?」
スケジュールについてテキパキと話すメアリーさんに、私の方が戸惑い気味です。
「あの、私のことを気遣って下さっているならご心配なさらないで下さい。ご都合の良くなった時にまたご連絡下されば」
「このままのスケジュールでいきたいから、そうしましょう。そうなると、次は2月一週目ね」
「そうなりますね。でも、ご無理なさらずに、何かあったらご連絡下さい。本当に大変な状況だと思いますから」
「人生には色々あるのが普通だから。もうずうっとこんな調子だもの、特別なことではないわ」
うーん、さすが。この人、本当に肝が据わっている・・と心の中でうなります。
電話を切った後、派遣元の会社へメールを書きました。
レッスンがキャンセルになった事情に加え、メアリーさんの様子などを伝えるためでした。
メールの最後に、「メアリーさんはinspiring (感動的、よい意味での刺激となるもの)な人だと思う」と、感じたことを書きました。
そして、派遣元の社長(メアリーさんと面識あり)からの返信には、「私もそう思う。彼女、いつもアップビートよね。自分が80代になったらあんな人になりたいと思う」と書かれていました。
あの超デキる社長でもそう思うのか・・・
メアリーさん、やっぱりすごい人だね。
社長も、メアリーさんの良さをしっかり分かっていてさすが。
と、再び心の中でつぶやきます。
そして、こんな素敵な人達が周りにいることにすっかり嬉しくなり、心が暖まるのを感じました。
*「メアリーさんのピアノ」は今年に入ってからお休みしていましたが、これまらまた少しずつ続きを書かせていただきます。これまで応援のメッセージを下さった方々、本当にありがとうございます。今後もよろしくお願いします。
(これまでのストーリーをお読みでない方は、
ブログ「メアリーさんのピアノ#1」「メアリーさんのピアノ#2」「メアリーさんのピアノ#3」「メアリーさんのピアノ#4」「メアリーさんのピアノ#5」「メアリーさんのピアノ#6」をご覧下さい。)
コメントをお書きください