メアリーさんのピアノ#4〜いつもと違う空気〜

小沼愛子

 

 ←こちらはメアリーさんのご自宅にある、実際に彼女が使っているピアノの写真です。アメリカ人らしく、家族の写真などが上に飾られています。

 

メアリーさんとのピアノレッスンをこのブログで紹介しようと私が思い立ったのには「きっかけ」がありました。

 

(これまでの話をお読みでない方は、ブログ「メアリーさんのピアノ#1」「メアリーさんのピアノ#2」「メアリーさんのピアノ#3」をお読み下さい。)

 

「レッスンやセッションの内容を事細かにネット上に公開するのは倫理的問題が存在する場合もあり、本人(もしくは保護者)の許可がない限り控えるべき」とお考えの方は多いと思います。

 

私もそう考えている一人で、皆さんに紹介したくなるような実例は沢山あるのですが、ネット上に詳細を書くことは全くしたことがありません。考えてみれば、過去の事例を記事に書くことや、学会で発表することはありましたが、現在進行中の仕事についてほぼリアルタイムに誰でも読める場所に書く事は今回が初めとなります。

 

もちろん、メアリーさんのことを皆さんに紹介すること、写真などを公開することには、ご本人から許可をいただいています。

 

 

しかし、どうしてそうすることになったのか?

 

 

理由はひとつではないのですが、こうなった経緯を今回から書いていきたいと思います。

 

 

今から約2ヶ月前、メアリーさん宅にレッスンに伺った日のことです。メアリーさんの娘さんとそのご主人が、これから旅行に出かけようとしているところへ私が到着。準備中で慌ただしいせいか、何だか家に中の空気が普段と違って落ち着かないな、という印象を受けました。なんとなく入りづらいな・・と思っている私。

 

 

メアリーさんはその状況を横目に、いつものように私をリビングへと招き入れてくれました。

 

「前回のレッスン後、どうしていたの?何か新しいことや変わった事はあった?」と、いつもと同じように話しかけてくれるメアリーさん。

 

「忙しくてあっという間の2週間で、特に特別なことは何もありませんでしたね。メアリーさんの方はどうですか?」と私の方もお決まりの質問をしました。

 

「そうね。何日か前にね、医者に行ったのよ」と、いつもと同じ調子で話し出したメアリーさん。

 

 

昨年のいつごろからだったか、メアリーさんは肩に痛みが出たり、手に少し震えが出たりしていました。他にも色々と検査を欠かさないメアリーさんは、頻繁に病院に行っている印象がありました。

 

その度に、

「特に問題はなかったわ」

「加齢によるものだから心配はないって」

「痛みと付き合って行くしかないそうよ」

などと私に報告して下さいます。

 

 

なので、この「医者に行った」という台詞は過去に何度も聞いた事のあるもので、特に驚くようなことではありませんでした。

 

 

しかし、今回は全く違った展開が待っていたのです。

 

 

 

「パーキンソン病だ、って診断されたの」

 

 

「・・・・・パーキンソン病、ですか?」

 

 

はっきり聞こえていたのに、思わず聞き返していました。

 

 

「そうよ」

 

 

普通に会話を続けるメアリーさん。

 

 

「ほら、前から手の震えが出ていたでしょう?あれは加齢のせい、って最初は言われていたけれど、パーキンソンの症状だったようね。それから、最近椅子から立ち上がる時に少しバランスが取れないことが増えてきていたの。それも典型的な症状だ、って言われたわ。それから・・・」と、医師から伝えられたことを話してくれるメアリーさん。

 

「・・・確かにその通りですね。しかし、パーキンソンですか。言葉がありません・・・難しい病気ですから」

 

 

私もメアリーさんも至って冷静なトーンで会話をしていました。もちろん、私の心は動揺していましたが、メアリーさんの話をしっかり聞くことに集中しようと努めていました。

 

 

「パーキンソン病、って言われた時にはショックを受けたけれど」と、メアリーさんは同じ調子で話を続けます。

 

 

「でも、大丈夫だったわ。自分の年齢を考えたら、そうなっても何の不思議もないもの。パーキンソン病って言われるのと、アルツハイマー病って言われるのと、どっちがつらいか・・・私のくらいの年齢になれば、大半の人達が何か大変な病気を煩っているものよね。私はこの年齢まで健康でいられたのだから、何の不満もないわ」

 

 

決して強がって言っているのではなく、自分に言い聞かせようとしているようでもなく、本気でそう考えているように、私には伝わってきました。

 

 

「本当に受け入れているっしゃるんですね」

 

 

少し涙目になりながらそう言った私に、メアリーさんは笑顔で次の台詞を言いました。

 

 

「でも、私の家族はとっても動揺していてね。パーキンソン病、って聞いた時の最初の反応はものすごくて大変だったのよ。その時のことで、是非あなたに聞きてもらいたい話があるの」

 

 

思えば、私達の後ろでバタバタと、しかし妙に無口に出かける準備をしている娘さんカップルは楽しい旅に行くはずがそんなムードは微塵もなく、どことなく私とメアリーさんの様子をうかがっている感じが・・・

 

私が何となく居心地悪い空気を感じたのは、メアリーさんを心配するあまり、「パーキンソン病告知報告」への私の反応に耳を傾けていた娘さんご夫婦の作り出した緊張感のためだったのかもしれません。

 

 

 

*メアリーさんが「私に是非話したい」と言ってくれたその内容は「メアリーさんのピアノその5:病名告知への反応」で紹介させていただきます。

 

 

 

 

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