~ニューロリハビリテーションにおける音楽療法②〜  “Music Therapy in Neurorehabilitation Vol.2”

 

小沼愛子


 

前回からの続き、「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法」について、今回は私自身の経験などを少し紹介させていただきます。


 

昨年6月、私は自分の音楽療法の臨床について「Neuroscience & Music IV」(神経科学と音楽)というスコットランドのエジンバラで開催された学会で発表する機会に恵まれました。脳梗塞後の失語症患者を対象にした音楽療法についての発表で、従来の神経学的音楽療法 (NMT)のテクニックとそれ以外の音楽療法の手法を組み合わせて使った、特定の失語症患者のリハビリにより効果的と思われる音楽療法の例を紹介したものです。

 

発表後、このケースを日本高次脳機能障害学会での発表で使いたいと、この学会に参加されていた言語聴覚士の出田和泉博士からご依頼を頂きました。これを受け出田博士と議論を重ねたのですが、一番の懸念は、博士の発表の題目が「失語症と神経学的音楽療法」と既に決定されていたことでありました。(これは博士がご自身で決めたものではなく、学会主催者側から「このタイトルで発表を」とご依頼があった、という流れと伺っています。)私が行っていた臨床はリハビリの為の音楽療法ではありましたが「神経学的音楽療法 (NMT)」の手法のみを使っていたわけではなく、博士もその点は理解して下さっていたのですが、題目とのギャップに戸惑ったという状態でした。こうなった背景には、リハビリ医学業界や音楽療法界において、

 

リハビリに使う音楽療法=神経学的音楽療法(NMT)

 

そして

 

失語症者への音楽療法=メロディックイントネーションセラピー(MIT)

 

 

と、ほぼ自動的に考えられていた、ということがあるのではないかと考えられます。(これは日本だけでなく、アメリカでもまだその傾向が見られる、ということも言及させていただきます。)

 

私達が抱いていたような疑問についての議論を音楽療法学会や論文で見聞きすることもあったのですが、その数はまだ少ない状態でした。同年8月、出田博士と共に、この分野の音楽療法の権威であるニューヨークのInstitute for Music and Neurologic Functionの所長、Concetta Tomanio博士を訪ね、自分達の疑問に関してご意見をいただきました。

 

Tomanio博士は先のエジンバラでの学会でやはり失語症の音楽療法について発表されていました。その手法は多岐に渡り、自分達と似た基本理念を持ってリハビリの音楽療法の臨床や研究をしていらっしゃるのではないか、という予感はあったのですが、直接お話してそれを確認することが出来ました。私達の疑問や葛藤が不自然なことでなく、同じように感じている音楽療法士や関連他職種の方は決して少なくないのではないか、とこうして他の音楽療法士との対話や勉強を続けるうちに確信出来るようになっていったのです。

 

それを踏まえ、同年11月、鹿児島で行われた日本高次脳機能障害学会のカレントスピーチにおいて、「神経学的音楽療法(NMT)」もニューロリハビリテーションにおける音楽療法の一部であると考える」と出田博士は明言なさったと伺いました。これには驚かれた方もいらっしゃったかもしれませんが、現在この分野には、NMT音楽療法士のみならず複数のエキスパート音楽療法士が存在し、それに続く臨床士も増えていると私は認識しています。また、皆が切磋琢磨しながらこの分野が成長しているという印象を、数々の論文、学会発表や講習会などから感じてもいます。

 

そして、日本国内でもこの分野で素晴らしい臨床や研究をされている方がいるということにもここで触れたいと思います。昨年、韓国で行われた世界音楽療法大会では、この分野のある日本在住の音楽療法士の方の発表に大変感銘を受けました。

 

発展途上まっただ中の「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法」について、今後もこのブログで少しずつ紹介を続けていきたいと考えています。次回は、前出のTomanio博士をはじめ、ニューロリハビリテーション分野で活躍する音楽療法士の研究や手法について紹介予定です。

 

 

*このブログ記事、または「ニューロリハビリテーションにおける音楽療法」ついてのご意見ご感想など、問い合わせフォームよりお寄せ下さい。

 

 

 

 

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